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文房具屋に生まれて

web 小説「文房具屋に生まれて」

「文房具屋に生まれて」
第1章 おばーちゃんの店

ぼくは大阪の小さな町の小さな文房具屋に生まれた。
正確にはおばーちゃんが主婦のかたわら、小学生相手に草野球に使うゴムボールや、円盤のおもちゃ、体操帽などを扱う横で、学生やサラリーマン向けの鉛筆、ノートや万年筆などの文房具をおいている小さな商店をやっていた。
僕はおばーちゃんの店から、歩いて10分弱離れたアパートにおとんとおかんと妹の良子と4人で暮らしいた。
朝、家から学校に行き帰りは学校からおばーちゃんの店に帰って、夕食を食べて家に帰る。
少しの嫌な思い出は、おばーちゃんの店から家に帰るのはいつも日が暮てからだったので、道端ですれ違うおっちゃんや、警察官がランドセルを背負ったぼくを止めて「ぼく。
こんな時間まで何をしとんねん」と注意されることだった。
当時おとんは証券会社のサラリーマンで、かつては柔道で学生選手権上位入賞という腕前だった。
就職も実業団選手としての入社だった。

第2章 おとんの決断

ある日、学校から帰ったら店におとんがいた。
おとんは事務方なのでめったに外回りはしないが、たまに外回りに出て早めに帰って来ることがある。
「おとうはん、今日は早いな?」「いや、朝からおるよ」「熱でたん?」「いや、お父ちゃん会社辞めてん」多少びっくりはしたが、それより嬉しい気持ちが優っていた。
幼いぼくに一家の大黒柱が会社を辞めるということの意味はわからず、ただドキドキしていた。
それはこの先どうなるのか?やっていけるのか?という不安が先行する大人には持てない「これから何か、とても楽しい事が起こる」という子供ならではの直感である。
今になって思うが、そういう幼い直感は現実になる可能性が高い。

「おとうはん、これから何のお仕事すんのん?」答えはわかっていたのだが、どうしても確かめたかった。
「おばーちゃんと一緒にこの店するんや」「やった!!」ぼくは天にも昇る気分で心臓はバクバク鳴っていた。
はしゃいで飛びまわっていると、お
かんが突然怒りだした。
「何が「やった!」や!!、いっこもええことあれへん!」店の中の空気は凍りついた。

第3章 通天閣

おとんが文房具屋デビューして次の土曜日、5人で船場に仕入れに出かけた。
先週までは、ぼくとおばーちゃんとおかんという面子だったが、そこにおとん加わり、さらに良子までついてくることになった。

おとんが良子を誘った。
「りょうちゃんも一緒にいくか?」
「行く!!」
良子はどこに何しに行くかも知らず、ただおとんに誘われことがうれしくて返事していた。
いつもはおかんの姉の中川のおばちゃんのところに良子を預けていた。

ぼくは良子を連れいくことに反対だった。
「仕入れは大事な仕事で遊びにいくのではないのだから、きっと足手まといになる」そう考えた。
おとんは長い距離を歩くが苦手なので、自転車で駅まで行くといって先に出た。

駅までの道すがらぼくはおかんに、何度か言ってみた。
「良子は中川のおばちゃんとこに預けといたほうがええんちゃう?」おかんはぼくの進言を無視はしないまでも、軽くあしらっていた。

ぼくは少し良子に意地悪をした。
おかんの見えないところで背中を押したり、手をわざとぶつけたりした。

第4章 オートマチック TOYOTA かむり

サラリーマン時代のおとんは多少の熱やおなかいたでも滅多に会社を休まなかった。
仕事振りは実際に見たことがないので、本当のところはわからないが、少なくとも勤め人としては真面目な人だと思っていた。
けれど文房具屋デビューを果たしたおとんは、しばらくぶらぶらしていた。

向かいのくすり屋にしょっちゅういっては将棋を差していた。
くすり屋はガラス扉だったのでうちの店から中の様子が良く見えた。

おとんとくすり屋のおっちゃんは将棋の勝敗にお金を掛けていたようだ。

くすり屋のおっちゃんのリアクションがあまりにも激しいので、店から眺めているだけで、どちらが勝ったかはすぐわかった。
おとんの将棋の腕前は決して凄いというほどではなかったけれど、だいたい3回に2回はおとんが勝っていた。

ぼくはおばーちゃんとおかんにその勝敗をちくいち報告した。
「くすり屋のおっちゃん今日3回とも負けや・・。
」「おとうちゃん帰ってきたらアイスクリームこうてもらい。
」おかんもおばーちゃんも、おとんがぷらぷらしていることについては、特別怒っているような様子でもなく不思議だった。

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